肩関節唇損傷(断裂)とは

関節唇とはなにか

人体の関節のいくつかは”球関節”と呼ばれる構造をしており、動かす際の自由度が高くなっています。代表的な球関節は「股関節」「肩関節」です。

この”球関節”は、関節の先端であるボール状の「骨頭(こっとう)」が受け皿である「関節窩(かんせつか)」というくぼみにはまり込むように構成されており、この構造により膝や肘にはない自由な動作を実現しているのです。自由な動きを実現している分、この”球関節”は他の関節よりも不安定性が高いとされ、「関節唇(かんせつしん)」と呼ばれる軟骨を始め、様々な組織がその構造をサポートしています。

「関節唇(かんせつしん)」は”球関節”の受け皿である「関節窩(かんせつか)」の縁を囲むように存在しており、唇のように付着しています。特に肩の関節唇である「肩関節唇」においては、その高さは約3〜4mm程度あり受け皿である関節窩の深さを出すことに貢献し(*1)、関節安定・衝撃吸収の役割をしているとされています。

肩関節唇損傷(断裂)

通常、肩の関節唇は、球関節である肩関節が外れたりしないよう、強く骨に付着しています。この肩関節唇が何らかの原因によって剥がれる等の損傷を受けることを「肩関節唇損傷(断裂)」といいます。

主に使いすぎ、外傷などが原因となるとされています。

特徴的な症状

肩関節唇損傷(断裂)、つまり肩の関節唇がはがれると様々な症状を引き起こします。ここでは肩関節唇損傷(断裂)の代表的な症状を記載いたします。

肩の痛み

肩の軟骨組織の損傷・断裂であることから、肩に痛みを覚えることが多いです。

特に腕を上げたり、腕を上げる動作を伴う投球時やテニスのサーブ時の痛みなど、動作時痛が特徴的です。

損傷の程度によりますが、動作時だけでなく安静にしていても痛んだり、夜間痛といって寝ていても痛む場合もあります。

肩の不安定感

肩関節唇損傷(断裂)の特徴的症状の一つに肩の不安定感が挙げられます。自覚される症状としては関節の骨が外れて不安定になる”脱臼”に近い感覚とされます。(実際に脱臼を伴う場合もあります。)

肩関節の動作時に不安定感、つまり、肩が抜ける・抜けそうになる感覚や、なんとなく引っかかる感覚を伴うことがあります。

主な原因

肩関節唇損傷(断裂)の原因は様々あるとされていますが、主なものをいくつかご紹介します。

外傷

転んで肩を強く打ち付けるという外傷を原因として肩関節唇損傷(断裂)になることがあります。

スキーやラグビーなど、転倒することが珍しくないスポーツでの手術例も報告されています。(*2)

使いすぎ(オーバーユース)

肩の使いすぎや無理な動かし方によって肩関節唇損傷(断裂)に発展する場合もあります。

特に、手を頭上まで挙上する動作でなりやすいとされ、野球において投球を行いすぎたり、テニスのサーブのしすぎは肩関節唇損傷(断裂)の代表的な原因と言われています。また、その他にもストレッチで過剰に伸ばしすぎることでも発症する場合があります。(*2)

診断方法

肩関節唇損傷(断裂)の診断にはいくつかの方法があります。

まずは医師による問診や触診を行い、追加でMRIやCTなどの検査を行い、ある程度は診断出来ます。ただし肩関節唇損傷(断裂)の診断は難しく、最終的には関節鏡と呼ばれる関節用の内視鏡を肩に挿入して診断される場合も珍しくありません。

治療方法

保存療法

まずは安静に手術によらない治療(保存療法)を行います。肩関節唇損傷(断裂)である場合、まずは安静にし、症状が収まるのを待ちます。特にスポーツのしすぎで発症した場合はまずはスポーツを中断し、安静にします。

その後も痛みが続くようであれば、痛み止めや注射などの薬による治療(薬物療法)を行い、症状が改善されれば運動によって症状や再発防止を図る運動療法に取り組みます。運動療法では、肩関節唇損傷(断裂)になりにくい動作のコツを習得したり、周辺の筋肉を鍛えることにより関節唇への負荷を減らして再発を予防するなどの取り組みを行います。

手術療法

上記の保存療法で症状が改善されない場合、手術を検討します。肩関節唇損傷(断裂)の手術は、この関節唇を縫合する手術「関節唇断裂修復術」と呼ばれます。

この「関節唇断裂修復術」では、関節鏡と呼ばれる関節用の内視鏡を使用します。そのため皮膚を大きく切開することなく内部を観察可能で、同時に手術用の器具を挿入して施術をお行います。皮膚に1〜3cmほどの小さな穴を3ヶ所ほど開けるだけで関節唇を縫い合わせることが可能です。

通常、翌日には退院可能であり、1ヶ月あれば日常生活に完全に戻れます。スポーツに復帰するには3〜6ヶ月を要することがあります。

 

*脚注

*1…西田 圭一郎, 橋詰 博行, 井上 一「肩関節唇の微細線維構築について」肩関節 1994年 18巻 1号 p.12-18

*2…中土 幸男, 畑 幸彦, 斎藤 覚, 松田 智, 内山 茂晴, 滝沢 勉, 土金 彰, 多田 秀穂, 百瀬 敏充「肩関節唇損傷に対する手術例の検討」肩関節 1993年 17巻 2号 p.223-227

記事執筆者
院長 前田真吾

六本木整形外科・内科クリニック

院長 前田真吾

日本整形外科学会認定 専門医