ヘバーデン結節とは、概要

ヘバーデン結節とは、手の指の第一関節(遠位指節間関節)の軟骨が摩耗することで関節自体が変形し、腫れたり曲がったりする疾患をいいます。第一関節にコブができることがよくあり、この疾患の特徴とされています。

この疾患を報告したウィリアム・ヘバーデン氏の名前をとって「ヘバーデン結節」と呼称されます。

詳しい原因はわかっておらず、手をよく使う習慣がある40代以降の女性によく見られる、という傾向があることが示唆されています。

原理としては、手の指関節内の軟骨組織が摩耗し、それに伴って炎症が発生、痛みに繋がります。また、さらに関節内の骨同士がこすれて軟骨が消失すると、骨に過剰な負担がかかり、それに対応しようとした骨が異常増殖して骨のトゲ(骨棘:こつきょく)を生成し、より強い痛みの原因になることもあります。

この骨のトゲは、ヘバーデン結節が初期の段階では少なく、小さいものですが、どんどん大きくなりX線でもその存在を認めやすくなっていきます。最終的には関節の中の隙間がほとんどなくなることで指関節の曲げ伸ばしが非常に困難となります。(*1)

ヘバーデン結節の症状

指の変形

ヘバーデン結節の症状としては、主に手の第一関節が腫れ、正常な状態と比べると指がまっすぐ伸びなくなるような変形や、第一関節から指先が横に曲がるといった症状が見られます。(*1)

指関節の痛み

ヘバーデン結節の代表的な症状のひとつは、手の指の第一関節部分が痛む、というものです。

第一関節に限らず、手指が痛いという自覚症状があり、加えて上述したような変形も同時に認められることが多いです。指が痛く、指先が変形していることが認められた場合、ヘバーデン結節の可能性がありますので、早めに整形外科を受診するようにしましょう。

手の変形と痛みがあるような疾患には、関節リウマチも考えられます。関節リウマチはヘバーデン結節と違い、手の第一関節だけではなく、手の関節全体が変形・炎症したり、手だけではなく膝などの他の遠い関節も変形するという違う特徴があります。いずれにせよ早期に対応することが重要ですので、少しでも当てはまる症状があれば整形外科を受診しましょう。

指関節にコブ

ヘバーデン結節にかかると、指の第一関節(手の最も先端の関節)が炎症を起こし、腫れることがあります。これは人差し指から小指にかけてコブのような腫れとして確認されます。

必ずしもコブのような大きいサイズでの腫れにならずに、小さいものになることもあり、水ぶくれのような小さいものになることもあります。

握力の低下

ヘバーデン結節に罹患すると、痛みや指関節の変形等の症状を原因として手を握りしめることが困難になる場合があります。

ヘバーデン結節の患者の症状を調査した研究では、ヘバーデン結節の患者の握力が通常よりも低下したことが示唆されています。(*3)

ヘバーデン結節の原因

ヘバーデン結節の原因ははっきりしていません。が、ヘバーデン結節の罹患といくつか関連が指摘されている項目はありますので下記に解説します。

女性であること

ヘバーデン結節は女性が多く罹患する、ということは古くから指摘されており、1952年の論文からも120のケース中110が女性であったと報告されています。(*2) 

また、ヘバーデン結節を発症している家族について研究した報告では、348名の女性と176名の男性について評価し、痛みやその他の症状について、有意に女性のほうが症状が重い傾向にあったことが報告されています。(*3)  よって同じヘバーデン結節に罹患している場合であったとしても、女性のほうが悪化しやすい可能性があります。

また、女性特有の閉経との関連も指摘されており、ヘバーデン結節を発症した45例中44例が閉経していた、とする研究もあります。(*4) 

これらの研究から、ヘバーデン結節は女性に発症しやすいうえ、女性の方が症状が出やすい疾患といえます。

中年以上であること

先にも述べましたが、女性、特に閉経した女性がなることが多く、40代以降の罹患が目立ちます。

女性の方で40歳を超え、手の指先に違和感や歪みを覚えたら、一度整形外科に受診されると良いでしょう。

遺伝的要因

ヘバーデン結節の発症には、古くから遺伝的な要因が示唆されてきました。なんらかの関節症を発症している親戚のいる人がヘバーデン結節を発症する確率が、関節症発生の一般的な確率を超えていることが確認された研究もあります。(*5)

よって、親戚になんらかの関節症をお持ちの方は、より一層ヘバーデン結節の発症に留意する必要がありますし、手の関節に先程ご紹介したようなヘバーデン結節の症状や違和感を感じた場合には早めに整形外科を受診されるとよいでしょう。

ヘバーデン結節の治療

保存療法

保存療法とは、基本的に手術などの外科的な方法によらない治療です。ヘバーデン結節の代表的な保存療法をいくつかご紹介いたします。中には当院では行っていない治療もございますのでご了承ください。

アイシング

ヘバーデン結節によって、指先に腫れや熱を感じる場合には、まずは患部を冷やすアイシングを行うことがあります。痛みは患部に生じる炎症による場合が多いので、アイシングで冷やし、炎症を鎮めることで痛みの低減を期待できます。

テーピング

ヘバーデン結節は、手の指の第一関節が痛みますが、第一関節を曲げたり伸ばしたりする際に痛みが生じることもあります。ヘバーデン結節の治療には、この曲げ伸ばしを制限するテーピングが用いられることもあります。

指の第一関節にテーピングを施し、関節が曲がらない・伸ばせないように指の動きを制限することで、ヘバーデン結節による痛みを減らすことが期待できます。シンプルに指の第一関節にぐるぐるとテープを巻き付ける場合が一般的ですが、一口にヘバーデン結節といっても個々人の状態に応じて対処する必要がありますので、詳しくは整形外科で医師に巻き方を指導してもらうと良いでしょう。

また、手指専用のテーピング材もあります。

*ディップエイドプラス (株式会社竹虎)

*ディップエイドプラス (株式会社竹虎)

薬物療法

ヘバーデン結節で困る症状としてはやはり「痛み」が挙げられます。よって痛み止めなどの薬を処方する薬物療法を実施することがあります。上述の通り、ヘバーデン結節の痛みを抑えることが目的です。

(※尚、後述のステロイド注射も薬物療法に区分されることがありますが、当該段落ではNSAIDs[非ステロイド性抗炎症剤]を中心とした薬物療法を記載します。)

主に飲み薬を処方することとなり、NSAIDsと言われるいくつかの抗炎症剤や、アセトアミノフェン、最近ではデュロキセチンというもともとうつ病の治療薬だったものまで様々な種類が検討されます。

どの薬を処方するかは医師の診断のもと、患者様の症状や進行度に応じて決定されます。

サプリメント

ヘバーデン結節に対する効果はいまだ議論の対象となるところですが、最近ではエクオールという成分がヘバーデン結節に有効なのでは、と議論されつつあります。

エクオールは大豆イソフラボンが腸内細菌によって生み出される成分の一種で、昨今ではこのエクオールそのものを摂取できるような製品も開発されています。(*6)

エクオールのヘバーデン結節の症状などに対する科学的な裏付けは取れていませんが、”ヘバーデン結節の原因“の項でも述べたように、ヘバーデン結節罹患者は女性に特に多く、閉経との関連性も指摘されています。閉経すると、女性ホルモンの一種であり軟骨や骨の形成に関わるエストロゲンの分泌量が著しく低下するため、様々な関節疾患への影響が示唆されています。エクオールはこのエストロゲンに近い作用を持つとされているため(*6)、エストロゲンが欠乏する閉経に伴う様々な疾患に有効ではないか?と示唆されています。

ステロイド注射

ヘバーデン結節は、強い痛みをもたらすこともあります。ここまで記載してきた保存療法では効果が見込めない場合に関節へのステロイド注射が検討されます。

ステロイド注射は強力な鎮痛効果が見込めます。ただし、その分副作用も強く、頻繁に打つことは推奨されていません。頻繁にステロイド注射を行った場合の副作用としては、骨を脆くしてしまう、免疫力が低下してしまう、一般にムーンフェイスとして知られる満月様顔貌になってしまう、などが挙げられます。

また、効果に個人差はありますが、ステロイド注射から数ヶ月で再び痛みが元に戻る、と言われており、根本的な治療ではないため、あまりにも痛みがひどい場合には後述の手術を検討したほうが良いかもしれません。

手術

手術は、メスで皮膚を切開し、そのうえで骨の一部を削って変形を改善したり、骨を固定したりなど、保存療法よりも疾患に直接的なアプローチをする治療法のことです。

下記にヘバーデン結節における手術の代表例を記載しますが、当院では手術を行っておりません。当院で診察し、手術が必要と判断した場合には、適宜近隣の対応病院をご紹介させていただきます。

粘液のう腫穿刺術・切除術

症状の部分でも軽く触れましたが、ヘバーデン結節の発症に伴って、指の第一関節に水ぶくれのような腫瘍(粘液のう腫)ができる場合があります。この膨らみそれ自体で痛みなどの症状をもたらしはしませんが、接触に伴って破裂してしまう可能性があります。

このヘバーデン結節による水ぶくれ様の腫瘍(粘液のう腫)が破裂した場合、可能性が高いわけではありませんが細菌感染リスクがあり重篤な疾患に罹患してしまう危険性もあります。

この粘液のう腫に対し「穿刺(せんし)」という内部の液体を抜いて圧迫することで再び粘液のう腫ができないようにする方法と、周辺を切開して内部粘液を除去する「切除術」の2つがあります。どちらも再発しないとは言い切れませんが、「切除術」のほうが再発は防げると言われています。ただし、「切除」する箇所が指の先端であり面積が狭いために精密な技術が要求されます。

骨棘切除術

ヘバーデン結節の痛みの原因のひとつは骨棘(こつきょく)という、関節内の骨のトゲが原因の場合もあります。

ヘバーデン結節の軟骨の摩耗が進行し、軟骨下の骨が露出する、もしくは露出までいかなくとも軟骨が薄くなり骨に負担がかかる状態になると、当然骨にこれまでよりも負担がかかります。骨はその負担に耐えようと増殖を行いますが、この際に骨が異常な増殖をすることがあり、関節内の骨がトゲの形に形成されることがあります。これが骨棘(こつきょく)です。

このトゲを除去するのが「骨棘切除術」です。

関節固定術

関節固定術は、文字通り、関節を固定する手術であり、ヘバーデン結節における関節固定術では、局所麻酔を施し、指の第一関節を形成している骨同士を、主にボルトやスクリューなどで固定する手術となります。

関節の骨と骨を固定するという手術の性質上、術後は指の第一関節は曲がらなくなります。ですが、第二関節から下がきちんと動けば日常生活に大きな支障はないとされています。

ヘバーデン結節により変形し歪んでいた指が真っ直ぐになり、関節を曲げることもなくなるため痛みがなくなります。また、手術から1〜2年で指の腫れが消失し、見た目も良くなるとされています。

人工指関節置換術

ヘバーデン結節に対して、人工指関節置換術を実施する場合もあります。人工指関節置換術とは、その名の通り、ヘバーデン結節などによって摩耗し変形した指関節の軟骨・骨を人工の関節に置き換える手術の総称です。

摩耗した軟骨や骨などの痛みの原因が取り除かれることによる除痛効果、そして変形していた関節が人工の関節に入れ替わることによる見た目の良化、そして関節固定術と比べて指先動作のある程度の回復が見込めます。(*7)

ただし、基本的な日常動作に焦点を絞れば前述の関節固定術で十分であり、また、人工の関節には耐用年数や損傷・脱臼の恐れもあり、ヘバーデン結節においては関節固定術のほうが選択されることが一般的です。

ヘバーデン結節になってしまったが、指先の動作を少しでも回復したい方、つまりピアノなどの楽器を術後に行いたい方や繊細な指先の動きが要求されるお仕事をされている方など、一部の患者様に対して実施が検討されます。

 

 

※注釈

*1…辻田 祐二良, 城戸 正博, 福田 照男, 小野山 靖人「いわゆる「指曲がり症」(ヘバーデン結節)発生のメカニズム」産業医学1988 年 30 巻 6 号 p. 486-487

*2…J. H. Kellgren and R. Moore「Generalized Osteoarthritis and Heberden’s Nodes」British Medical Journal 1952

*3…G.Jones, H.M.Cooley, N.Bellamy「A cross-sectional study of the association between Heberden’s nodes, radiographic osteoarthritis of the hands, grip strength, disability and pain」Osteoarthritis and Cartilage Volume 9, Issue 7, October 2001, Pages 606-611

*4…ROBERT M. STECHER「Heberden’s Nodes: The Clinical Characteristic Of Osteo-Arthritis Of The Fingers」Ann Rheum Dis. 1948; 7(1): 1–8.

*5…J. H. Kellgren, J. S. Lawrence, and Frida Bier「Genetic Factors in Generalized Osteo-Arthrosis」Ann Rheum Dis. 1963 Jul; 22(4): 237–255.

*6…内山 成人「大豆由来の新規成分 “エクオール” の最新知見」日本食品科学工学会誌 62巻 (2015) 7号

*7…那須 義久,坂口 和輝,西田 圭一郎「人工指関節置換術とそのリハビリテーション」Jpn J Rehabil Med 2017;54:191-194

記事執筆者
院長 前田真吾

六本木整形外科・内科クリニック

院長 前田真吾

日本整形外科学会認定 専門医