手根管症候群とは

手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)とは、主に手にしびれを覚える整形外科疾患です。

疾患名にも入っている手根管とは、手の中心にあり、腕から指へ分岐する神経(正中神経)と指を動かす9つの腱が通るトンネルのことを指します。これらの組織を囲むようにいくつかの骨と靭帯がトンネルのような構造をしています。

なんらかの原因によってこの手根管が狭くなることで神経が圧迫され、手のしびれを感じることが「手根管症候群」です。

症状

手指に様々な症状をもたらします。手根管症候群の初期には中指や人差し指にしびれを感じ、しびれだけでなく痛みや動かしづらさを覚える場合もあります。症状が出やすい部位は次のようになっています。

  • 中指
  • 人差し指(示指)
  • 薬指(環指)の半分
  • 親指(母指)
  • 手のひら

手根管症候群になり初めの頃はこのしびれ・痛みは明け方に感じられ、起き抜けに強く症状が出やすいとされます。手を振ると楽になることが多いです。

これらの部位に症状が出る理由は、手根管内部を通る正中神経が手のひらや親指から、薬指周辺までの感覚を担っていることが起因しています。この構造上、手根管症候群の場合は手の甲、手首から腕側に症状が出ることはありません。

また、症状が進行すると親指の付け根の筋肉が衰え、人差し指と親指で丸を作る(OKサインをする)ことができなくなり、モノをつまむという動作に支障を来すようになってしまいます。(*1)

原因

手根管症候群は原因がはっきりしないもの(特発性)と、原因がある程度はっきりしているものの2つに別れます。

原因が判然としないもの(特発性)

手根管症候群患者の70〜80%が原因が判然とせず発症しているとされます(*2)。原因がはっきりせずに疾患が生じることを特発性と呼びます。

ただ、女性であること、そして女性に特有の妊娠中や出産後、閉経後などの発症が多く、女性ホルモンとの関連性が指摘されています。ある報告では、イギリスにおいては女性が男性の2倍近く、またイタリアでも女性が男性の3.6倍ほどの有病率だとする報告もあり(*3)、男性より女性に多い疾患と言えます。

その他、先天的に手根管が狭く中を通る正中神経を圧迫しやすい構造であったり、神経が平均よりも弱い方、などもこの原因がはっきりとせずに手根管症候群へ至る可能性があるとされています(*3)。

ある程度、原因が判別されるもの

一方で、原因がある程度わかるものもあり、次のようなものが挙げられます。

  • 手や指の使いすぎ(指の屈筋腱の腱鞘炎)
  • 手根管内部の腫瘍
  • 関節リウマチ
  • 骨折などの外傷(手首等)

症状の項で説明した症状があり、上記原因のどれかに心当たりがある場合は速やかに整形外科を受診されることをお勧めします。

治療法

手根管症候群の治療は、手術と手術をしない治療法(保存療法)の2つに大別され、主に手術をしない保存療法から開始します。

保存療法

症状を抑えるための投薬から開始することが多いです。その他にも手根管症候群に対する主な保存療法をご紹介します。

ビタミン剤

手根管症候群で特徴的な症状は手指のしびれ、そしてその原因は手根管内部を通る手の神経が圧迫されたり、損傷したりしている可能性があるため、末梢神経の修復に効果的と言われるビタミンB12を始めとしたビタミン剤を投与することがあります。

薬物療法

痛みの低減を目的に消炎鎮痛剤を服用したり、手に湿布を貼るなど、薬を用いた治療を行います。

また、痛みが非常に強い場合、薬剤の注射を行う場合があり、なかでもステロイド注射は疼痛軽減に強力な効果が認められています。ただし、強力であるがゆえに副作用もありますので、頻繁に使用することは難しいです。

装具療法

手根管症候群は手や指の使いすぎが原因になる場合もあるとご説明いたしましたが、そのような原因の患者さんや、手や指を動かすことで症状が出るような場合には、サポーターなどを用いて手指や手首を固定することもあります。

ただし、長期の固定はかえって筋肉や靭帯その他の組織を萎縮させ、動かしづらくなってしまう可能性がありますので、医師の判断の元、適切な期間・タイミングで実施します。

手術

記のような保存療法を実施しても良くならない難治性のものや、症状が進行していて親指付け根の筋肉が衰えてモノをつまむことができないなどの場合には手術が検討されます。また、手根管内部に腫瘍が認められたり、その他、医師の診断のもと必要と判断されれば手術を検討することになります。

手根管症候群における手術例を以下にご紹介します。

鏡視下手根管開放術

局所麻酔を行い、手の狭い部分を切開するにとどまり、日帰りで実施できる手術です。

手のひらや手首の数カ所に数cm(1cmほどで済むことが多い)の切開を行い、関節用の内視鏡である関節鏡を挿入して内部の様子を確認しながら、先端に手術器具のついた用具を挿入し、原因となる部分の切除や縫合を行うことができます。(※細かな術式は疾患の状況、担当医の経験などによって変動します。)

手根管症候群は手の中央辺りを通る正中神経が圧迫されて生じますが、その要因の多くは正中神経を囲む手根靭帯が狭まることです。よって、この手術により手根靭帯を開くことで正中神経が圧迫されている状況から解放することで、症状の改善が見込めます。

機能再建術(腱移植)

手指のしびれや痛みの他、手根管症候群の症状が進み、親指付け根の筋力低下に伴って親指と人差指でモノをつまむことが困難なほど疾患が進行している場合には、上述した今日しか手根管開放術よりも大掛かりな手術が必要となる場合があります。

この場合、健康な指の腱をしびれが深刻な指に移植します。健康な指にもメスをいれることになるので、可能ならば避けたい手術であり、また、経過の観察に年単位を要するともいわれます。

 

記事執筆者
院長 前田真吾

六本木整形外科・内科クリニック

院長 前田真吾

日本整形外科学会認定 専門医